コンプレックスは主に他人との比較から生じる自分に対する否定的な見方や劣等感から発生します。しかし、この感覚の背後に重要な自己認識が隠されていることが非常に多いとされています。進化心理学者Richard E. Nisbetによると、人は自分の価値を理解したいが為に他者と比較することが多く、この過程で自己の真の能力や才能を見落とすことがあります(Nisbett, 2003)。つまり、コンプレックスを感じるとき、その裏にはその人の大切な自己認識が隠れているにも関わらず、他人と比較をしているがゆえにその大切な自己認識に気づきにくくなってしまうのです。結果として、人は自分の才能には自分一人では気づきにくい傾向があります。クライアントAさんのケースAさんは「人がどう感じるかを気にしすぎて、自己主張できない」と悩んでいました。話を聞いていると、自己主張を重視する組織文化の中で、同僚のBさんと比べて自己主張ができておらず、「だから自分はダメなんだ」とコンプレックスを抱えている状態でした。 しかしよくよくAさんの話を聞いてみると、どうやらその背景には「同僚も自分と同じように、人がどう感じるのかを気にしている → 気にした上で自己主張をしている → 自分よりすごい」という思い込みがあることが分かりました。「そのことについてBさんと話してみる」という宿題をAさんに出したところ、次のセッションでAさんは楽しそうに結果を教えてくれました。 「人の気持ちを先回りして考えることは、私にとっては当たり前でも、Bさんにとっては気にしないとできないことなのだと知りました。むしろBさんは「目立つのが楽しいので、ただそれをやっているだけだ」と話してくれました。」 Aさんはその後のセッションで、この当たり前だと思っていた自身の性質が、実は「相手の立場や感情を深く理解する」という才能であることに気づきました。元々次のキャリアを考えていた背景もあり、この強みをより活かしながら人の役に立てる仕事を探して、転職をされました。現在は無形商材のコンサルティング営業に従事されており、そこで彼女の「相手の立場に立った丁寧な関係構築力」が評価されているとのことです。障害として避けるのではなく、ケーススタディとして向き合うこと。コンプレックスをただの障害と捉えるのではなく、そこに向き合った上で、背景にある思い込みと「当たり前にやっていること」を言語化し、才能を見つけていく。簡単なことではありませんが、中長期的なキャリアと人生を考えると、とても重要なプロセスなのではないでしょうか。